ネマリンミオパチーとは
ネマリンミオパチーは、稀な遺伝性筋疾患です。
症状の発症年齢と重症度は、患者によって大きく異なります。一部の人は、出生時または出生直後に発症し、致死的となることがあります(先天性発症)。幼児期やさらにまれに成人期に発症する場合もあります。
症状としては、筋力低下、筋緊張低下(低緊張)、および反射の減少または消失が含まれ、呼吸や嚥下の筋肉の低下もしばしば認められます。
ネマリンミオパチーは、筋力低下と、顕微鏡で筋肉の生検を観察した際に見られる細い糸状または棒状の構造「ネマリン小体」の存在によって特徴づけられます。
これは、筋肉を構成するフィラメントのタンパク質成分をコードする遺伝子の変異によって生じた異常な筋肉タンパク質が蓄積したもので、これにより筋力の低下を引き起こします。
「nema-」はギリシャ語で「糸状」を意味します。
症状
•ネマリンミオパチーの症状の特徴は、筋力低下、低緊張、および反射の減少または消失です。低下する部位も特徴的であり、顔、首、および体の中心に近い筋肉(肩、骨盤、上腕、および大腿の筋肉)が障害されます。
•顔の筋肉が影響を受けるため、細長い顔、通常より後ろに位置する顎、および高い口蓋などの特徴的な顔貌になることが多いです。また、話すことが困難になったり(構音障害)、食べ物を飲み込む力の障害(嚥下障害)や呼吸障害を来すことがあります。
•乳児期に発症した場合は、頭を支える、座る、立つなどの運動発達の遅れが出てしまうことがよくあります。しかし、他の発達には問題はなく、知能は通常影響を受けることはありません。
•年齢を重ねると、筋繊維の肥厚や短縮によって変形が生じ、関節の運動が制限されてしまったり(拘縮)、陥没胸(漏斗胸)、脊椎の側弯症(側弯症)、脊椎の異常な硬直が発生することがあります。
ネマリンミオパチーはいくつかのタイプに分けられます
1 典型的な先天性ネマリンミオパチー
•最も多く、全体の約半数を占めます。
•出生時または生後1年以内に現れることがあります。
•筋力低下、筋緊張低下 (だらんとした様子) や嚥下困難を示すことがあります。筋力低下の程度は乳児重症型や中間型に比べると軽度です。
•中には、出生時に著しい筋力低下があり、年齢とともに改善する場合もあります。
•呼吸筋が弱いことが多く、呼吸困難や睡眠中の不十分な呼吸により夜間低換気を引き起こすことがあります。
•歩行の異常、嚥下障害、構音障害(発話困難)、や鼻声を示すことがあります。
•頭を持ち上げる、座る、立つといった粗大運動の発達の遅れを経験することもあります。運動発達の遅れで気づかれることもあります。
•このタイプのミオパチーの筋力低下は通常、体の中心に近い筋肉に起こりますが、稀に、腕や脚などの上下肢の遠位筋にも症状がでることがあります。
•筋力低下は通常進行しません。しかし、思春期の成長期には、筋力低下が進行して最終的に車椅子の使用が必要になる場合もあります。
•典型的な先天性ネマリンミオパチーのほとんどの人は、最終的には独立して歩くことができます。
2 重度先天性(新生児)ネマリンミオパチー
•全症例の約16%を占めます。
•重度の筋力低下と筋緊張低下を認めます。
•吸うことや飲み込むことが困難で、自発的運動はほとんどなく、呼吸不全を示します。
•しばしば生命を脅かす呼吸不全を引き起こし、嚥下機能の低下により誤嚥を繰り返すことで、肺炎のリスクを高めます。
•一部の乳児は、胃食道逆流(胃や小腸の内容物が食道に逆流する)を経験することがあります。
•稀に心筋の病気(心筋症)や多数の関節拘縮と関連していることがあります。
3 中間型先天性ネマリンミオパチー
•全症例の約20%を占めます。
•重度先天性型よりは軽度で、典型的先天性型よりは重度です。
•早期に関節拘縮が発生することがある。
•乳児期から成長するにつれて、運動発達の遅れを経験することが多く、自力で座ったり歩いたりすることができない場合もあります。
•幼少期に車椅子や持続的な呼吸(換気)サポートが必要になることがよくあります。
4. 小児発症型ネマリンミオパチー
•全症例の約13%を占めます。
•10歳から20歳の間に明らかになることが多い。
•初期の運動の発達は通常影響をあまり受けませんが、10代後半から20代初頭にかけて、徐々に進行する筋力低下が現れます。
•足を上に向けて曲げることができなくなる(足下垂)などの下肢の症状がでることがある。
5. 成人発症型ネマリンミオパチー
•非常に稀であり、全症例のわずか4%を占めます。
•発症年齢や重症度はさまざまで、20歳から50歳の間に発症し、全身の筋力低下が急速に進行することがあります。
•筋肉痛も出現することがあります。首の筋肉が障害されると、頭を支えるのが難しくなり、頭が垂れることがあります。
•一部の人では、筋力低下の進行に伴って呼吸や心臓の合併症を発症することがあります。
•このタイプのネマリンミオパチーは、遺伝的または遺伝性の形態とは異なる可能性があります。
6. アーミッシュネマリンミオパチー
•日本ではあまり関係ないので、参考程度に。
•アーミッシュコミュニティ内のいくつかの家族内で特定されたネマリンミオパチーです。発症は出生直後で、進行性の筋力低下、突出した胸骨を伴う重度の胸の変形(鳩胸)、筋萎縮(筋肉の減少)なども認めます。
•重度の新生児呼吸疾患および多発性関節拘縮症(関節拘縮、筋肉の永久的な短縮)が存在し、これがしばしば2歳までに死に至る原因となります。
原因
•遺伝子異常が原因であり、原因遺伝子の種類は10種類以上が知られている。
•ネマリンミオパチーに関与する遺伝子は、骨格筋の収縮装置の正常な構造と機能において重要な役割を果たす特定のタンパク質を作成するための情報を含んでいます。これらの遺伝子が変異するとこれらのタンパク質の欠乏や機能不全を引き起こし、筋肉収縮の強さや正常な筋構造の発達が妨げられます
•ネマリンミオパチーの少なくとも50%は常染色体劣性遺伝であり、残りは常染色体優性遺伝または散発的です。
•ACTA1遺伝子の変異は、ネマリンミオパチーの約15〜25%で認め、重度、中間、または典型的な先天性ネマリンミオパチーの原因となります。
•NEB遺伝子の変異は、ネマリンミオパチーの約50%で認め、どのタイプのネマリンミオパチーも引き起こす可能性がありますが、典型的な先天性ネマリンミオパチーの原因となることが多いです。NEB遺伝子の変異は常染色体劣性形質として遺伝します。
•そのほかの原因遺伝子としては、TPM2、TPM3、TNNT1、CFL2、KBTBD13、KLHL40、KLHL41、LMOD3遺伝子などがある。
発症頻度
•日本人の発症頻度に関するデータは現時点ではありません。
•日本人の178人に1人がこの疾患の原因となるNEB遺伝子の変異を持っていると報告されています。この変異は常染色体劣性遺伝形式で遺伝し、発症には両親からの変異を受け継ぐ必要があります。
•海外のデータでは発症率は出生5万件に1件と推定されています。
診断
•ネマリンミオパチーの診断は、筋肉の組織を採取し顕微鏡で観察することで(筋生検)、糸状または棒状の構造(ネマリン体)の存在が確認されることで確定される場合があります。
•近年は、遺伝子の変異を特定する分子遺伝学的検査によって診断が行われることが増えています。
•以下はネマリンミオパチーの診断プロセスの詳細です:
1.臨床評価:筋力低下や筋緊張低下などの特徴的な症状を確認します。
2.病歴の聴取:家族内での同様の症状の有無や遺伝的背景を調査します。
3.筋生検:顕微鏡でネマリン体の存在を確認します。
4.分子遺伝学的検査:ACTA1、NEBなどの関連遺伝子の変異を確認するための遺伝子検査を行います。
•これらの方法を組み合わせることで、正確な診断が可能になります。
治療法
•ネマリンミオパチーには特定の治療法は存在しません。患者の症状や症状の程度に合わせた支持療法が中心です。多岐にわたる専門的なサポートが必要で、患者一人ひとりの症状やニーズに合わせた包括的なケアが重要です。
1.運動療法::軽度から中程度の低負荷運動、マッサージ、ストレッチなど。筋力と機能を維持し、拘縮の発生を防ぐことを目指します。
2.呼吸サポート:呼吸サポートが必要になることがあり、夜間低換気を防ぐために機械による換気が含まれることがあります。呼吸の慎重なモニタリングも重要です。四肢の筋力低下が軽度でも呼吸サポートが必要な子もいます。
3.感染症の管理::呼吸機能の低下により、上気道・下気道感染を起こすことがあり、抗生剤などで治療します。
4.栄養サポート:食事困難を経験する患者には、適切なカロリーおよび栄養摂取を確保するために経管栄養が必要になることがあります。話すことが困難な場合は、言語療法が必要になることがあります。
5.整形外科的介入:脊柱側弯症や関節拘縮などを予防および治療するために、装具の着用や整形外科的治療が必要となることがあります。足の筋力が著しく低下した場合は、最終的に車椅子が必要になることがあります。
6.心機能の評価:稀な合併症ですが心臓の筋肉(心筋)の障害が出ることがあり、評価は重要です。
7.遺伝カウンセリング:患者およびその家族には遺伝カウンセリングが推奨されます。